バソンについて

世界の通常のオーケストラでは、ドイツ式とフランス式の2種類のファゴットが使用されており、一般にドイツ式はファゴット、フランス式はバソンと呼ばれている。
フランスの一部のオーケストラと世界の数少ないバソン愛好家を除いて、世界の全てのオーケストラでは、ファゴットが使用されている。
ファゴットは、一般に楓材で作られ、キーの数も多く、完成度の高い機能を有し、どんな楽器や音楽とも協調性があり、控えめでいぶし銀のような味わいがある。
一方バソンは、紫檀で作られ、キーの数も少なく、バロック時代からあまり大きな変化はない。 音色や音程などコントロールが難しい反面、歌心溢れる、鮮明で多彩な響きを有し、フルートやオーボエにも劣らぬソリスティックで豊かな表現力を持っている。

バソンの歴史は古い。その前進であるダルシアンや初期のファゴットは16世紀には十分確立普及していた様だが、 17世紀に入るとジョイント式のバソンがフランスに現れ、フランス式の楽器が広く普及する様になる。
18〜19世紀にはサヴァリーやトゥリエベールを中心とするフランス人の名工により楽器の改良が重ねられ、性能や奏法も大きく進歩した。
当時、作曲家でありバソンの名手でもあった、ドゥヴィエンヌ、ゲボ、オッツィといった人達が、ヨーロッパを縦横無尽に旅してまわり、その妙技を披露していた。 モーツアルトをはじめとする、当時の多くの作曲家は、現代のフランス式バソンにより近似した楽器の演奏を耳にしていたと思われる。

1847年頃、ドイツ式ファゴットはまだ不完全な楽器で、調子はずれで運指も一定していなかった。 しかしその後、アルメンレーダーやヘッケル達の努力で、ファゴットが改良されると、20世紀は逆にそれが広く普及する時代になる。
1969年に、カラヤンがパリ管弦楽団の音楽監督になったのを機に、フランスでもファゴットが普及しはじめ、 2004年には、伝統あるパリオペラ座の一部の奏者がファゴットに転向した。 まるで歌舞伎の女形を女性が演じるのと同じほどショッキングな出来事であった。
これを機に、フランスでもバソンの持つ文化的意義とバソン独特の魅力的な音色について、大いに議論され、見直され始めている。
1995年には「日本バソンの会」が誕生し、60名を越すバソン愛好家たちが、バソンの独特な響きを楽しんでいる。
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